古井由吉

「群像」8月号、古井由吉「子供の行方」

桶谷秀昭が『昭和精神史』(一九九二)だったか、その戦後編(二〇〇〇)だったかで書いていた。『きけわだつみのこえ』なんかを読むと、アメリカへの憎悪が無いことに驚く、という話である。一九四七年の出版だから当然のように思えるけれど、一九四三刊行…

十年前の「ユリイカ」4月号を見つけた

昨年から文芸誌を読み始めて気がついたのは、私の複数性と世界の複数性を扱った作品が多いことだった。もちろんこれは文学史上初という事態ではない。十年前の「ユリイカ」四月号が「多重人格と文学」という特集を組んでいるのを見つけた。大塚英志と香山リ…

古井由吉「生垣の女たち」(『やすらい花』)再読

『やすらい花』から「生垣の女たち」を読み返した。この短編集について、「新潮」六月号で諏訪哲史が、「古井氏の最近の小説はどれも「連作」と銘打たれているにもかかわらず、僕には、各々が全く趣向の異なる独立した作品にみえて仕方がない」と述べている…

古井由吉『やすらい花』

『やすらい花』は初出の段階でずいぶん読んだ。三十年ほど古井由吉を読み続けて思うに、だいたいどれも同じで、今回もそう思った。ほかのベテラン作家も似たようなものかもしれない。それは考えずにおこう。一冊にまとまって改めて読み直した。やはり最高で…

「新潮」1月号の対談ふたつ

いろんな二月号がぱっとしないので、積んだままの一月号をゆっくり読める。話題になった「新潮」の対談二つを。ひとつは大江健三郎と古井由吉。反戦反核の作家と内向の世代が語り合う、というのは私には違和感があったけど、古井の対談集を探したら前にもあ…

古井由吉『人生の色気』

今月は新刊がたまって文芸誌を読めずにいる。古井由吉『人生の色気』が出た。この人の単行本はすべて持っている。いまさら買わずに済ませられない。全六回にわたる茶飲み話を一冊にまとめた本だった。回ごとに佐伯一麦、鵜飼哲夫、島田雅彦なんて面々が同席…

江藤淳『夏目漱石』冒頭

吉本隆明との対談で古井由吉が江藤淳について、こんなことを言っている。「江藤さんの漱石追究も、最初にこれが小説といえるんだろうかっていう疑念を踏まえていると思います。そこがすぐれたところだと思います。で、なおかつ小説だと解き明かすところが」…

「新潮」10月号、朝吹真理子「流跡」ほか。

これまで私は十三回も東浩紀「ファントム、クォンタム」について書いてきた。うまく読めてないからそうなる。量子脳やSFの素養が無さすぎるのが一因かなあと思って、ペンローズやイーガンを読んだ。読後感は、「理系方面をマニアックに読み込んでも、『新…

古井由吉『漱石の漢詩を読む』

吉川幸次郎『漱石詩注』は岩波文庫に入っているが、二十数年前は岩波新書だった。そして品切れだった。古本屋で三千円もしたものである。なんとか安いのを見つけて買えた時はうれしかった。しかし、読んでもよくわからない。『漱石詩注注』があればなあ、と…

2月号、新潮、橋本治「巡礼」、群像、吉村萬壱「不浄道」

私が以前に文芸誌をよく読んでいた二十年ほどの昔は、ちょっと現代的な感じを出そうとしてる小説には、ゲイと右翼がよく登場していたものだ。これからの小説に流行るのはゴミ屋敷、部屋を汚す女かもしれない。楊逸「ワンちゃん」にもちらっと出てくる。そん…