閑話。

 三好達治の若い頃の言い草は、「関東が関西より秀でているのは寿司と落語だけだ」。いまは関西の寿司もなかなかだと思う。落語に関しては、どうだろう、東だろうと西だろうと今なら達治は話題にさえしないかもしれない。私は関東から関西に移ってもう十数年になるが、第一印象は変わらない。関西の方が、食べものがうまい、仏像が素晴らしい、女性が魅力的だ。劣るのは中華料理と現代芸術だろうか。
 怖い部分は黙っておくとして、関西の女性は自分の美質をアピールすることに長けている。元気が良い。それから、キラキラするものが好きで、ささいなアクセサリーの光を発見しただけでも内心が興奮してるのが傍目でわかる。長所かどうか微妙なようだが、個性的な彼女らが、不良も優等生も似たようにときめくのは面白い。以上の特質を練り上げたものが宝塚歌劇団である。
 先月のこと、嫁が言うに、「できたかもしれない」。そうなるとしばらくは夫婦して出かけることは難しそうである。ちょうど梅田芸術劇場花組の公演がある。嫁はタカラヅカが大好きだ。私はそれほどでもないが、演目が「ミーアンドマイガール」となると見てみたい。新婚時代の終りのイヴェントとしては丁度よかろう。嫁が大賛成したのは言うまでも無い。私がヅカを提案するのは意外だったようだ。会場を見渡せば、女性客ばかりで、たったひと組あったサラリーマンの二人連れは劇場と野球場を勘違いしてるように見えた。
 私の知ってる「ミーアンドマイガール」はテレビで見た1995年の天海祐希である。あのカッコ良さが忘れられなかったのだ。1987年の公演では宝塚歌劇で同一の組によるロングラン記録を樹立した定番である。しかし、初演は1937年と知って驚いた。"Me and My Girl"も"The Lambeth Walk"も新しい曲だと思っていたからだ。「マイフェアレディ」の男性版と言われたが、こっちの方がミュージカルとしては20年近く古い。作曲者ノエル・ゲイ(1898-1954)って、普通の作曲者とちょっと違う人だったんだろう。
 さて、論じるほどの資格は無い私だが今回の公演の感想である。主役の真飛聖はコミカルな味に特色があった。天海祐希のような天性のスターの華やかさは無いけど、そのぶん、羽目をはずして笑いをたくさんとれた。脇役も、貴婦人マリア役に象徴的だが、私の知ってた気品ある邦なつきが、のどかな京三紗になっていて、主役とのかけあいはコントのようだった。もちろん、見せ場はキリっと締めて、全体としてメリハリのある飽きない舞台だった。
 例によってフィナーレが夢のようで、これを見てしまうと、さっきまで二時間近く見ていたものを忘れてしまうのが欠点に思える。テレビで見た団員は70人くらい、今回は40人くらいだけど、やっぱナマの元気とキラキラ感は圧倒的だ。タカラヅカ以外の「ミーアンドマイガール」があるとも知って驚いた。これしか知らない私は、ヅカガールのラインダンスが無いバージョンというのが想像もつかない。