2010-04-01から1ヶ月間の記事一覧

卯月の一番、「新潮」4月号、橋本治「リア家の人々」

「思想地図」とかその周辺の評論を読んでいて不快なところは、いまの世の中をわかってる、という物言いである。そんなことできるわけないのだ。時代は事後にわかるものなのである。「新潮」四月号の橋本治「リア家の人々」を読む快感は、人々が時代をわから…

「現代詩手帖」二月号の討議から

吉本隆明が『日本語のゆくえ』(2008)でゼロ年代の詩を評し、「「過去」もない、「未来」もない。では「現在」があるかというと、その現在も何といっていいか見当もつかない「無」なのです」と言った。結構話題になったらしい。一昨年まで私は寝ぼけていた…

村上春樹『1Q84』Book 3 読書中(その3)

第27章まで読んだ。Book1, 2 を昨年に読んだ読者の多くが続編を望んだ。彼らに対する違和感を、私は軽蔑をこめて前に書いた。しかし、そのまさに書いたまんまの「二人が奇跡の再会を果たして泣いて抱き合う、どこにでもころがってる結末」に物語は向ってしま…

村上春樹『1Q84』Book 3 読書中(その2)

第18章まで読んだ。ここまでBook3 を特徴づける新しい登場人物が出ていない。舞台もそのまま。つまり、Book1, 2 の設定を引き継ぐだけの進行である。いつになったら変化が現れるのか。変わり映えのしない天吾のアパートを見張り続ける牛河のような気分になっ…

投瓶論争まだまだ

投瓶論争にはもう触れないつもりだった。充分に理解できたからである。というのは、どうも勘違いだったらしい。東浩紀が21日のtwitter で投瓶通信について何度か言及している。ガキっぽさは相変わらずだけど、ふたつほど、思いもよらない発言があった。 ひと…

村上春樹『1Q84』Book 3 読書中(その1)

Book 1、2 までの『1Q84』をまとめれば、主題は「物語」だ。 「がんばれば夢がかなう」とか、「本当の自分を見つけよう」とか、物語とはそういうもので、現代文学理論では軽蔑される。 しかし、どんなに軽蔑しようと、人は物語から逃れられない。青豆や…

東浩紀『クォンタム・ファミリーズ』まつり(その2)

書評よりも作者本人の発言の方が参考になるケースが多かった。たとえば、twitter で三浦俊彦『多宇宙と輪廻転生』に関して、「いままでだれも指摘しませんでしたが、これは元ネタのひとつです」(09/12/25)なんて言ってる。昨年四月に書いたように、初出の…

東浩紀『クォンタム・ファミリーズ』まつり(その1)

『クォンタム・ファミリーズ』の書評はネットや文芸誌などでいろいろ読んだ。茂木健一郎、法月倫太郎、佐々木敦、小谷野敦、宇野常寛、前田塁、阿部和重、斎藤環、平野啓一郎など。ぱっとしないのが多い。茂木健一郎を例にとろう。彼はブログで、量子力学の…

「小説トリッパー」春号、「群像」4月号の朝吹真理子

旧朝吹山荘を昨年見学した。ヴォーリズ設計の美しい別荘だ。朝吹亮二は朝吹登水子の甥で、朝吹真理子は朝吹亮二の娘なんだそうだ。昨年十月号「新潮」の「流跡」のようないかにも育ちの良いデヴュー作の作者がこんな人だと聞いて、それだけで真理子のすべて…

十年前の「噂の真相」四月号を読んだ(その2)

たしかに浅田彰の発言には、そんなことは黙ってればいいのに、と思うのもある。そこは省いて、必要な部分を。中森 東は浅田さんが編集委員を務める『批評空間』が売り出した批評家なんだから、もうちょっと教育したら。それとも、個人的に迫ったけど、ふられ…

十年前の「噂の真相」四月号を読んだ(その1)

何度か触れてきた投瓶論争をそろそろまとめておきたい。自分の批評活動をどうやって読者に届けるか、という場合のモデルのひとつが投瓶通信だ。 1、浅田彰は投瓶方式を支持する。この方法では一人の読者にも批評が届かないかもしれない。けれど、「届かない…