2011-08-01から1ヶ月間の記事一覧

「群像」九月号、川上未映子「すべて真夜中の恋人たち」(1)

椅子や石の考えている夢を実現してやるんだ、と埴谷雄高は絶叫していた。『独白 「死霊」の世界』のどこかでそんな場面があった。椅子や石の夢はさぞかし楽しくて、実現のし甲斐があろう。埴谷雄高には、「言いたいことも言えずに死んでいった者たちの代弁者…

「新潮」九月号、柄谷行人「哲学の起源(3)」

第四章 宗教批判としての自然哲学 タレスは万物の元を水に求めた。アナクシマンドロスは地水火風の四要素を挙げた。しかし、イオニアの自然哲学においては、何が始原物質であるかという意見の相違よりも、共通点に注目すべきだ。物質と運動が不可分であり、…

奥泉光『シューマンの指』(2)「『シューマンの指』音楽集」

『シューマンの指』を読んでいて、ところどころもどかしいのは、聴いたことの無い曲が言及されていることだ。同じ気持ちの読者が多いのだろう。ソニーが六枚組のCDを作ってくれた。小説に現れるシューマンをほぼ全部集めて三千円というのは便利だ。「ピア…

「群像」8月号、古井由吉「子供の行方」

桶谷秀昭が『昭和精神史』(一九九二)だったか、その戦後編(二〇〇〇)だったかで書いていた。『きけわだつみのこえ』なんかを読むと、アメリカへの憎悪が無いことに驚く、という話である。一九四七年の出版だから当然のように思えるけれど、一九四三刊行…