川上未映子
「群像」十一月号に作者のインタヴューがあった。聞き手は武田将明である。 私は『すべて真夜中の恋人たち』の主人公冬子を「たんにつまらない、何にも無い人」だと書いた。それがこの小説の要だと思ったのだ。川上未映子が語りだすのはまづこの点であり、自…
一九日の「読売新聞」夕刊に川上未映子のインタヴューが載った。『すべて真夜中の恋人たち』について、こんな質問を受けている、「今作では「光」が重要なモチーフになっていますね」。未映子の答えはこうだ。 見えるものと見えないもの、今あるけれどいずれ…
椅子や石の考えている夢を実現してやるんだ、と埴谷雄高は絶叫していた。『独白 「死霊」の世界』のどこかでそんな場面があった。椅子や石の夢はさぞかし楽しくて、実現のし甲斐があろう。埴谷雄高には、「言いたいことも言えずに死んでいった者たちの代弁者…
川上未映子初の対談集である。「ほしほし」と読むらしい。六人との対談七つが収録されている。そのうちふたつが永井均とのだ。すでに触れた、どちらも見事なものである。他の五つはやや落ちるかな。永井との対談と比べたら、どうしてもそんな評価になろう。…
あっちこっちの新聞で、書評家さんたちが今年のベスト3とか2009年の回顧とかなさっている。思ったのは、鹿島田真希『ゼロの王国』を読まずにいたのは手抜かりであった。そうか『白痴』を素材にしてるのか。そりゃ読もう。せっかくだから私も。2009年の収穫…
冨永昌敬「パビリオン山椒魚」はひどかった。新人が映画をなめた、ありがちの駄作だった。二度とこの監督の映画は見なくていいという確信を得られたのだ、決して金と時間の無駄ではなかった、そう自分を納得させて帰路についたものだ。太宰治「パンドラの匣…
男性の自慰行為には動詞「抜く」が使われる。さて、女性も「抜く」ことができるだろうか。三十路を目前にした主人公鶴子は「抜ける」女性である。彼女の唯一の性感帯はクリトリスだ。ただし、小説ではすべて「突起」と書かれている。川上未映子の「先端」が…
柄谷行人が、「最近の若手批評家」の傾向として、「他人がどう思うかということしか考えていないにもかかわらず、他人のことをすこしも考えたことがない、強い自意識があるのに、まるで内面性がない」と述べている(『近代文学の終り』2005)。東浩紀などが…
川上未映子『先端で、さすわ さされるわ そらええわ』が中原中也賞をとった。大好きな一冊に光が当たってうれしい。収録作の中でも「ちょっきん、なー」がオススメである。でも、あれって詩集だったんだ。萩原朔太郎においてすでに詩と散文は見分けがつかな…
ずっと昔に授業で聞いただけで検証してはない。大正の始まるころの新聞は漢文調が主だったそうだ。例外はあって、それは新聞小説だった。そして、その文体がだんだん他の紙面に広がって現在のようになったそうである。 ダンテがイタリア語を作り、ルターがド…