2009-06-01から1ヶ月間の記事一覧

水無月の一番、村上春樹『1Q84』Book2(その2)

前回はパシヴァとレシヴァ、ドウタとマザの関係から作品全体を整理した。この小説の考えやすい部分だ。難しいのは1Q84と1984の関係である。リーダーはそれを並行世界(パラレルワールド)とはとらえていない。1984年の世界は「もうどこにも存在しない」と彼…

その後の中村梨々と白鳥央堂

三月にふれた中村梨々と白鳥央堂(ひさたか)のその後について。梨々は季刊「びーぐる」の投稿欄で読むことができる。ちなみに、「びーぐる」は「詩学」も「るしおる」も無くなってしまった詩壇の危機意識から昨年に創刊されたばかりの雑誌である。 もう 子…

村上春樹『1Q84』Book2(その1)

月はふたつあるのだ。ふたつめの月は、ひとつめの影にあたる。ひとつめが主で影が副というわけではなく、ふたつでひとつだ。ほとんどの人はひとつめの月しか見たことが無い。ただしパシヴァ(知覚者)なら見ることができる。また、レシヴァ(受容者)の資質…

NHK総合テレビ6月20日、「川の光」

原作があり、同じ題名で松浦寿輝の児童文学である。本になったのは2007年だ。川を住みかとしていたクマネズミの親子が、河川工事で追われてしまい、新天地を求めて旅に出る。これをNHKが「SAVE THE FUTURE」という環境番組キャンペーンの一環としてアニメ…

新潮昨年11月号、飯塚朝美、週刊朝日6月26日、東浩紀

あなたを望んで産んだわけではない、と親に言われた娘の気持はどんなだろう。少なくとも、親はそんなことを言うべきではない。しかし、往々にして文学新人賞の選評にはそんな文句が現れる。しかも、親の眼に映る子ども像の多くは実像であるのに対し、選考委…

村上春樹『1Q84』Book1

二巻発売されたうちの一冊目である。主人公は二人いて、奇数章は女性、青豆さんだ。彼女が1984年の現実から1Q84に移ってしまう話である。一冊読んだ限りでは、そんな並行世界を設定する絶対の必然性を感じない。私は東浩紀「ファントム、クォンタム」と何度…

吉増剛造『キセキ-gozoCine』

言葉で書いた通常の詩はとうぶん書かない、と吉増剛造は述べているらしい。『表紙 omote-gami』を読む観るだけで、私にも想像できたことではある。かわりに彼が2006年から始めたのが、デジタルビデオカメラによる短編映画だ。「ゴーゾーシネ」と名付けられた…

六〇年代や七〇年代を語る三冊

初期の吉本隆明をまとめて読んだとき、もう具体的には思い出せないが、批評と批評の間で言ってることが矛盾しており、何度か戸惑った。すが秀実『吉本隆明の時代』(2008)はそれを、六〇年代の論戦を勝ち抜くための戦略的な変わり身として分析してくれた。…

新潮2月号、東浩紀「ファントム、クォンタム」、連載第五回

そのうちみんなが言うだろう、村上春樹『1Q84』と「ファントム、クォンタム」は似てる。簡単に検索したところ、一般に公開されてる日本語サイトで、これを指摘してるのはいまのところ私だけらしい。痛快である。 『1Q84』は9章まで読んだ。青豆さんが並行世…

新潮昨年12月号、東浩紀「ファントム、クォンタム」、連載第四回

「新潮」6月号で星野智幸「俺俺」が始まった。主人公の男性と別の男で人格が入れ替わってしまう話である。「ファントム、クォンタム」と似ている。また、村上春樹の新作『1Q84』Book1 の帯にはこうある。これも「ファントム、クォンタム」を思わせる。 「こ…