2010-08-01から1ヶ月間の記事一覧

葉月の一番「文学界」8月号、綿矢りさ「勝手にふるえてろ」

若い女性が主人公で、彼女には好きな男Aが居る。彼女を好きな男Bも居る。彼女は男Aを追いかける。彼女は男Bを傷つけ捨てる。だが、結末近くで心境の急転回がある。それはほとんど気分的なもので、改心の理由を説明する価値は無い。とにかく、主人公は男…

クリストファー・ノーラン「インセプション」

今敏が亡くなったと聞いて、「インセプション」を見たくなった。三時間近いということで敬遠していたのだけど、他人の夢に侵入する映画という点で、それを見ることが「パプリカ」の監督をしのぶよすがになるような気がした。三時間はあっという間であった。…

閑話。

花村萬月なんて読むのは何年ぶりか。「文学界」八月号に連作「色」の第三回「黄」が載っていた。「もう十年ほど前になるだろうか。書家の提言がきっかけで、手書きか、ワードプロセッサかという論争がおきたと記憶している」。おお、十年前の話なら任せてく…

前島賢『セカイ系とは何か』

セカイ系という言葉を知ったのは最近である。社会的な媒介項を抜いて自分と世界が直結してしまう、という点で、連想したのは、タルコフスキーとか志賀直哉とかだ。そんなにはずしてないと思う。調べたり検索したりしたら、言及してる人がすでにあった。最近…

「考える人」夏号、「村上春樹ロングインタビュー」(その2)

1日目に言われたとおりに『1Q84』Book3 をゆっくり読み返してる。たしかにあんまり嫌うのは悪い気がしてきた。インタヴューは2日目と3日目も読んだ。主に、前者は生い立ちや読書経験について、後者はアメリカで成功する経緯について。どちらも良いこ…

柄谷行人『世界史の構造』(8)「第四部」

世界史は覇権を持つ国が存在する時期としない時期の交代の繰り返しだった。しない時期を帝国主義的な時代と呼ぼう。各国が覇権を争う時代である。一九九〇年以降はアメリカの支配権が崩れて帝国主義的な時期に入っている。そして、(6)で述べたように資本…

十年前の本を読んだ。

こんなものあいつに読まれたら恥ずかしい、そんなあいつの役を担当する者が居なくなってしまった、おかげでみんなくだらないものを平気で書けるようになった、という意味のことをどこかで蓮實重彦が言っていた。いま手元の本をざっと探して見つからなかった…

柄谷行人『世界史の構造』(7)「第三部第四章」

交換様式ABCが互いに支え合う、国家と資本と国民の切っても切れない輪を崩すには、交換様式Dが必要だと柄谷行人は考える。それは普遍宗教が受け持ってきた。しかし、宗教の形をとっていては、そのうちそれは国家のシステムに取り込まれる。(5)で述べ…

読売文学賞、高村薫『太陽を曳く馬』(その2)

禅については秋月龍ミンの本を私は好んで読んだ。坐禅して解脱した瞬間の体験談に関して、その多くは同じ姿勢を続けて疲労したあまりの異常心理にすぎない、と彼は述べている。しかし、体験しか無い者は異常心理と神秘体験を区別する基準を持ってない。『太…

読売文学賞、高村薫『太陽を曳く馬』(その1)

東京の喧噪の真ん中で托鉢と坐禅にあけくれる曹洞宗の寺で、修行僧が交通事故で死んでしまう。この僧の監督責任を寺の者に問えるか。主人公は刑事である。作者の愛読者なら合田雄一郎という名は御存知のはずだ。捜査にあたって『正法眼蔵』を読んでおくとい…

閑話。

私は戦闘系のアニメを馬鹿にして育ち、ガンダムもエヴァンゲリオンも見ずに四十を過ぎてから、二十も年下の腐女子を嫁にもらってしまい、攻殻機動隊やらラーゼフォンやら教わることになって、この世界は結構深いことを知った上に、こないだニュースを読んで…

中之島国立国際美術館、束芋「断面の世代」展、ほか

こないだ奈良に行ってきた。興福寺の展示が変わった国宝館を見たかったのだ。昨年まで阿修羅様をはじめとする八部衆はガラス戸の向こうに並んでいた。病院の人体模型のようで風情が無かったのである。今は、うす暗い部屋の効果的な照明で浮き上がるように設…

柄谷行人『世界史の構造』(6)「第三部第一章第二章第三章」

国家、資本、ネーション、これらについて、そして、それらの密接な関係について論じた。「ネーション」は以下、「国民」と書いておく。 国家を国家の内側から論じてもわからない。国家は他の国家に対して存在する。そう考えて明らかになる国家の力というもの…

「考える人」夏号、「村上春樹ロングインタビュー」(その1)

聞き手が良い。だから村上春樹は三日にわたってすごくたくさん語ってくれている。春樹ファン必読だ。当然ながら『1Q84』の話題が多い。あんまりたくさんなので、全体的な紹介はあきらめて、「一日目」から、断片的なことだけ書いておこう。『1Q84』…