2010-07-01から1ヶ月間の記事一覧

文月の一番「すばる」7月号、荻世いをら「彼女のカロート」

お墓のメンテナンスをするのが主人公の仕事だ。有名人からの依頼がある。ニュースキャスターの女性だ。と言っても、彼女はここのところ休んでいる。耳が聞こえなくなったからだ。主人公の仕事内容よりも、彼女の症状に小説の主眼がある。 彼女が有名であるの…

「新潮」7月号、討議「東浩紀の11年間と哲学」

東京大学で行われたシンポジウムの記録である。東浩紀と『アンチ・オイディプス草稿』の共訳者、國分功一郎と千葉雅也が、『クォンタム・ファミリーズ』を、『存在論的、郵便的』の続編として読めるという観点から論じ合った。この線で初めて語り合えるまと…

柄谷行人『世界史の構造』(5)「第二部第四章」

世界帝国は共同体を越えた世界宗教や普遍宗教を必要とする。それ無しでは帝国内の多様な国民を束ねることができない。宗教とは何か。それは呪術とは異なる。呪術は交換様式Aにもとづく。宗教は交換様式Bである。人間は神に服従して祈りを捧げ、神は人間を…

柄谷行人『世界史の構造』(4)「第二部第三章」

国が唐やローマ帝国ほど大きくなると、もう国家の範疇では理解できない。それは世界帝国である。国や共同体を越えた原理が働く。帝国内の共同体間の交易が大きい。交換様式Bだけでなく、交換様式Cが重要になる。 帝国にはその中核部と周辺部があり、帝国の…

十一年前の江藤淳追悼特集を読んだ

あれ?っと、今年になってから思い出した。昨年は江藤淳没後十年だったのでは。主要文芸誌にその種の記事を見た記憶が無い。いまさら悲しくなって、亡くなった当時の「新潮」「群像」「文学界」といった追悼特集を読んだ。晩年だけでなく若い頃のエピソード…

柄谷行人『世界史の構造』(3)「第二部第一章第二章」

第二部では交換様式BとCが論じられる。「略取と再分配」と「商品交換」だ。両者は不可分だ。それでもひとまづ、前者については国家の発生、後者については貨幣の発生として、分けて説明される。 交換様式Aによって結びついた共同体がまとまってもそれは国…

鮎川信夫賞、稲川方人、瀬尾育生『詩的間伐』

私が現代詩を読めなくなってきたのは、たぶん、平出隆や松浦寿輝を好んで、稲川方人を読まなかったことも一因かもしれない。稲川の方が現代詩であった。今となっては平出や松浦を詩人とは呼びにくくなっている。対して、中尾太一が稲川方人から生まれている…

柄谷行人『世界史の構造』(2)「第一部」

「序説」で述べた交換様式A「互酬」について論じた。一言で言えば、贈与と返礼である。柄谷行人は氏族社会で代表させている。特に共同体間の互酬が扱われる。たとえば、ある氏族から何かが贈られると、贈られた側はそれを他の氏族に贈らねばならない。つま…

十年前の「新潮」7月号、三島由紀夫賞選評

『服部さんの幸福な日』(2000)と『濁った激流にかかる橋』(2000)が好きだから、私は伊井直行の愛読者だ、と言ってもいいかもしれない。特に、筋書きだけ書いたらサイコで緊迫感のあるはずのストーリーを、のほほんと仕上げてしまった前者が気に入っている。…

柄谷行人『世界史の構造』(1)「序説」

柄谷行人は交換様式として経済をとらえる。 交換様式A「互酬」は贈与と返礼による。私の思いつく例は寺子屋である。先生は読み書きそろばんの知恵を生徒に贈与する。生徒は食材や奉仕で先生に返礼する。長屋のような共同体で成立するものだ。柄谷は数世帯か…

「新潮」7月号「昭和以降に恋愛はない」大江麻衣(その2)

何度も「夜の水」を読み返した。三月六日のTwitter を見ると、高橋源一郎が「夜の水」を「ここ数年読んだ詩の中で、№1の面白さだと思う」と激賞する要点は、これが「本邦初のガールズトーク詩(?)だったかも」、「「女の子」じゃなく「女子(じょし)」が、これ…

「新潮」7月号「昭和以降に恋愛はない」大江麻衣(その1)

クイズをひとつ、「貞久秀紀と松本圭二と四元康祐と杉本真維子と斎藤恵子と小笠原鳥類と藤原安紀子と多和田葉子と岸田将幸の共通点は何か」。答えは、「中原中也賞の候補になったけど受賞できなかった」。彼らをしのいだ受賞者たちを確認すると、長谷部奈美…