「新潮」7月号、討議「東浩紀の11年間と哲学」

 東京大学で行われたシンポジウムの記録である。東浩紀と『アンチ・オイディプス草稿』の共訳者、國分功一郎と千葉雅也が、『クォンタム・ファミリーズ』を、『存在論的、郵便的』の続編として読めるという観点から論じ合った。この線で初めて語り合えるまともで知能指数の高い相手を見つけた喜びのもたらす熱気が、浩紀の発言に感じられ、活発な議論になった。普通なら聞けないネタバレを披露してくれている。逆に言うと、これ以外の人選では、なかなかこれほどのレベルは望めないだろう。私がいくら『クォンタム・ファミリーズ』を繰り返し読んでもうまく論じられないわけである。力量の差をはっきり感じてしんみりしてしまうのは久しぶりだった。
 「普通なら聞けないネタバレ」を引用しておく。あらかじめ知っておいた方が、小説を理解しやすいかもしれない。なお、『QF』とは『クォンタム・ファミリーズ』のことである。

 「物語外2」は三人称で書かれています。物語内では章立てが1、2、3……と実数になっていますが、「物語外2」では「i 汐子」と虚数単位のi が使われている。これはなにを意味するか。じつは、この「物語外2」=「i 汐子」は、一種の二次創作として汐子によって書かれているという設定なのです。つまり、汐子というコンピュータが、『QF』の物語を読んで記した小説なのですね。
 物語内には並行世界があるわけですが、最終章だけは、その並行世界がたくさんある「物語」まるごとを外部から見た、また別の世界で記されていることになっている。

 「ファントム、クォンタム」の最終回を読んだ際に、「i 汐子」にあたる部分について、「いわば、創造主が目覚めた後の世界なのだ」と私は書いている。「創造主」はもちろん汐子のことだ。わりと当っていたわけである。けれど、『クォンタム・ファミリーズ』を読むうちに、それを忘れてしまった。そもそも私は「i」はローマ数字だと思って読んでいた。ほか、「物語外1」の資料A、B、Cは、それぞれ別の並行世界から引用されている、とのこと。これは作者が言ってくれないとわからない。