2010-10-01から1ヶ月間の記事一覧

神無月の一番、高岡修『幻語空間』

こないだ読んだ『阿部和重対談集』(二〇〇五年)で高橋源一郎がこう言っている、「現代詩がどうしてデッドロックに乗り上げたかというと、それは完璧主義と「新しくなければいけない」という規範のせいです。そして、これはモダニズムの考え方そのものなん…

「新潮」8月号〜11月号、長野まゆみ「デカルコマニア」

並行世界ものが流行るのは、並行世界それ自体が流行っているわけではない。複数の世界や複数の私が流行っているわけで、それはまた、複数の世界がひとつの世界だったり、複数の人が私ひとりだったり、なんてことでもある。そのややこしさは長野まゆみ「デカ…

中公文庫「完全版」伊藤比呂美『良いおっぱい悪いおっぱい』

やっと子供が七カ月になった。妊娠から今日まで出産本や育児書は何冊か読んだ。育児書で特に素晴らしかったのが内藤寿七郎『育児の原理』である。内藤は三年前に百一歳で亡くなった偉大な小児科医である。題名は悪い。乳幼児保健学なんかの教科書のようだ。…

小谷野敦『現代文学論争』(その2)

私の記憶では、スペースシャトル・チャレンジャー号の事故は日本でも中継されていた。見ていたと思う。キャスターは久和ひとみで、これは間違いない。シャトルが分裂する間、しばらく無音の時間が流れていた。私は「これは事故なのかな」と思った。久和の何…

小谷野敦『現代文学論争』(その1)

「まえがき」に、臼井吉見『近代文学論争』の「後を受けるもの」とある。最近の論争についてもそんな本があればなあ、とかねがね思っていた。ありがたい。それにしても臼井のあれ、どこにやったか。もう二十年以上も前に勉強で読んでそれっきりだ。それでい…

読売新聞10月9日、水村美苗「母の遺産」第三十九回

主人公の母が死んで終わりかと思ったら、まだ続いている。主人公はいま箱根に逗留しているところだ。どうまとめるつもりなのか。母の死とその後で共通する話題は、いまのところ夫の愛情が薄れてしまったことだけである。 主人公は新婚旅行を思い出している。…

ised(情報社会の倫理と設計)設計篇

国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)の東浩紀研究室(06/08/01,解散)が二〇〇四年から翌年にかけて運営していたシンポジウム「情報社会の倫理と設計についての学際的研究」(Interdisciplinary Studies on Ethics and Design of In…

十年前の「新潮」を読んだ。平野啓一郎「葬送」第一部、よりもCD。

五五〇枚を一挙掲載である。あんまりたくさんなので、単行本との違いを比較する気になれなかった。当時の新聞時評を確認すると、川村湊も菅野昭正も、第二部もふくめ「葬送」に言及していない。平野啓一郎のブログには、「ピアニストの方と会うと、『葬送』…

新潮10月号、特別対談「書くことと生きることは同じじゃないか」

吉本隆明とよしもとばななが対談している。一か所だけ、吉本の発言が、読んでいて「ああそうだったか」と昔の彼を思い出させてくれた。 家族や親族というのは、本来一人の男性と一人の女性の性的なつながりから発展した集団で、これは他のどんな社会集団とも…

文学界10月号、鼎談「ありうべき世界同時革命」

「文学界」十月号で『世界史の構造』をめぐって、著者柄谷行人が大澤真幸、岡崎乾二郎と鼎談してる。柄谷が日本国憲法第九条に言及してる部分で、ちょうど二〇年前の本を思い出した。岩井克人との対談書『終りなき世界』の最後のところだ。 よく日本は、西洋…