水村美苗

読売新聞10月9日、水村美苗「母の遺産」第三十九回

主人公の母が死んで終わりかと思ったら、まだ続いている。主人公はいま箱根に逗留しているところだ。どうまとめるつもりなのか。母の死とその後で共通する話題は、いまのところ夫の愛情が薄れてしまったことだけである。 主人公は新婚旅行を思い出している。…

「新潮」9月号、絲山秋子「作家の超然」(1)

母ががんになった体験記などいつもは読まないけれど、たまたま私の近親者にがん患者が続けて出たので、「文学界」九月号の小谷野敦「母子寮前」を最初の方だけ読んだ。肺がんの場合、3センチが手術できるかどうかの目安になるそうだ。ほか、やっぱり同じ立…

土曜「読売新聞」水村美苗「母の遺産」第十回

大阪朝日新聞の嘱託だった坂田三吉は字が読めなかった。社員に頼んで夏目漱石の連載を朗読してもらうのを楽しみにしていたという。似たような話を他にも聞いたことがある。最先端の書き言葉がそこにはあった。まあ昔のことだ。いまの新聞小説は株式欄かなん…

中央公論3月号、特集「日本語は亡びるのか」

「中央公論」までが水村早苗『日本語が亡びるとき』に刺激されて「日本語は亡びるのか」という特集を組んだ。恥ずかしいことに「ユリイカ」での特集と同じタイトルである。おまけに、三人の談話を載せた顔ぶれのうち、水村と蓮實重彦は「ユリイカ」と同じで…

すばる3月号、ル・クレジオ「逆説の森のなかで」、2月の村上春樹、エルサレム賞記念講演

ル・クレジオがノーベル賞をもらった。星埜守之訳「逆説の森のなかで」は昨年十二月七日の受賞記念講演である。「逆説の森」はダーゲルマンの言葉で、「飢えた人々のためにこそ書きたいと望んでいたというのに、彼の存在に気づくのは結局、充分に食べ物のあ…

文学界2月号、ドナルド・キーン「日本人の戦争」

真珠湾から敗戦後までに書かれた日本人の日記を、主に小説家を中心に読み解いた四〇〇枚の長編である。この手の日記で有名な永井荷風、高見順、山田風太郎はもちろん、伊藤整や吉田健一などほかにもたくさん引用されている。新事実や新資料の発見はほとんど…

2月号の蓮實重彦、新潮、「随想」、ユリイカ、「時限装置と無限連鎖」

世界経済の危機である。マネーゲームが経済を狂わせてしまった、それが現代の資本主義の問題だ、とよく聞く。しかし、昔からのことではないのか。昭和初期の金解禁に乗じたドル買いはマネーゲームに思える。幕末の金貨流出もマネーゲームに思える。もちろん…

文学界1月号、水村美苗

水村美苗『日本語が亡びるとき』の冒頭三章が、出版に先行して昨年の「新潮」9月号に掲載されたとき、夢中で読んだ私だったが、ここまで話題になるとは思わなかった。十月に出て、こないだ書店で奥付を見たらすでに五刷であった。 この本には、ふたつの現状…