一番

睦月の一番、村上龍『歌うクジラ』(まだ読み始め)

宮台真司が誰かとの対談で「子育てしてると二割は仕事量が減る」みたいな発言をしていた。「勉強量」だったかな。よくまあ二割で済んだ。私の子育ては、一年目が終わろうとしたところで順調なペースがつかめてきており、それは要するに、読書量を四割は減ら…

師走の一番、庚寅の一番。

先月は仕事で忙しく、年末から正月は帰省で忙しかった。本はあんまり読んでない。何度挑戦しても挫折するドゥルーズ、ガタリ『アンチ・オイディプス』を一〇〇頁ほどでまた挫折した程度だ。「器官なき身体」って、なんなんだ。今回の印象だと、エヴァンゲリ…

霜月の一番、佐々木中『切りとれ、あの祈る手を』第三夜以降

読むことをめぐる佐々木中の第三夜は、イスラム教の教祖ムハンマドについて語る。ムハンマドの最初に受けた啓示とは「読め」だった。そして、佐々木が強調するのはムハンマドの特殊性である。法の起源に関するフロイトの説明と対比させて言う、ムハンマドは…

神無月の一番、高岡修『幻語空間』

こないだ読んだ『阿部和重対談集』(二〇〇五年)で高橋源一郎がこう言っている、「現代詩がどうしてデッドロックに乗り上げたかというと、それは完璧主義と「新しくなければいけない」という規範のせいです。そして、これはモダニズムの考え方そのものなん…

長月の一番、「新潮」9月号、舞城王太郎「Shit, Brain Is Dead.」

砂漠に派遣されたアメリカ兵たちの話である。任務が変わってる。指定された場所に着くと、アメリカ女が居る。民間人だ。彼女はそこで深い穴を掘る作業の指揮をとっている。何のために?夫を探すためだ。行方不明になった夫は何日も砂中を移動しているという…

葉月の一番「文学界」8月号、綿矢りさ「勝手にふるえてろ」

若い女性が主人公で、彼女には好きな男Aが居る。彼女を好きな男Bも居る。彼女は男Aを追いかける。彼女は男Bを傷つけ捨てる。だが、結末近くで心境の急転回がある。それはほとんど気分的なもので、改心の理由を説明する価値は無い。とにかく、主人公は男…

文月の一番「すばる」7月号、荻世いをら「彼女のカロート」

お墓のメンテナンスをするのが主人公の仕事だ。有名人からの依頼がある。ニュースキャスターの女性だ。と言っても、彼女はここのところ休んでいる。耳が聞こえなくなったからだ。主人公の仕事内容よりも、彼女の症状に小説の主眼がある。 彼女が有名であるの…

水無月の一番、高橋源一郎『「悪」と戦う』(その2)

初出連載と単行本との比較はすでに「群像」七月号で安藤礼二の書評がやっていた。安藤は「モナドロジー」と重ねて『「悪」と戦う』の並行世界を説明している。ライプニッツで説明がつくなら、人間が悪と戦える余地は無い気もする。まあいいや。この小説の最…

皐月の一番「すばる」4月号、鹿島田真希「その暁のぬるさ」

五月号の文芸誌はあんまりぴんとこなかった。古井由吉の連載が始まったとか町田康の朗読CDとか大杉栄が現代に現れるとか喜多ふありが書いてるとか川上未映子がアラーキーと対談してるとか、話題はいろいろあるんだけど、中身が物足りなかった。そこで、今…

卯月の一番、「新潮」4月号、橋本治「リア家の人々」

「思想地図」とかその周辺の評論を読んでいて不快なところは、いまの世の中をわかってる、という物言いである。そんなことできるわけないのだ。時代は事後にわかるものなのである。「新潮」四月号の橋本治「リア家の人々」を読む快感は、人々が時代をわから…

弥生の一番、青山七恵『魔法使いクラブ』

青山七恵とか津村記久子を読むとよく思う、「また芥川賞を取るつもりなんだろう」。そんな作家が幻冬舎から小説を出した、というのが意外だった。三章に分かれていて、それぞれ主人公が小学校、中学校、高校と成長してゆく構成だ。私は去年に活字になった青…

如月の一番「新潮」2月号、福永信「午後」

今年の二月号は低調かと思ったが、先月の福永信「一一一一」を読んだ後では、「新潮」の「午後」に当然期待する。そして、とても良かった。まだ知名度の低い作家たちの中では私のイチ押しになった。偽日記@はてなによると、「「新潮」二〇〇七年十二月号の「…

睦月の一番、「群像」1月号、松浦寿輝「塔」

平岡ものである。昨年一月号の「川」については前に書いた。ほか「新潮」七月号「鏡よ鏡」がある。昨年の文芸五誌に載った平岡ものはこれが全部だ。三作目ともとなると、私も読み慣れてきた。もう市ヶ谷の事件と関連させて読んだりはしない。それでも、「川…

二〇〇九年の一番

あっちこっちの新聞で、書評家さんたちが今年のベスト3とか2009年の回顧とかなさっている。思ったのは、鹿島田真希『ゼロの王国』を読まずにいたのは手抜かりであった。そうか『白痴』を素材にしてるのか。そりゃ読もう。せっかくだから私も。2009年の収穫…

霜月の一番。津村記久子『アレグリアとは仕事はできない』(2008)

三月に図書館に貸出を頼んだ本がやっと順番がきて読めた。ぎりぎりまだ一年たってない本だから、これを新刊と認定して今月の一番に。二篇収録されているうち、表題作が良い。 職場のコピー機の調子が悪い。機械が自分に悪意を働かせているのではないか、と主…

神無月の一番、なかにしけふこ『The Illuminated Park』

副題は「閃光の庭」。これが第一詩集らしい。古風な、どことなく定型句めいた言葉遣いが目立つ。形式感も備えた詩人で、読んでいると、賦とか、頌とか、私の頭にはそんな実はよく知りもしない用語が浮かんでくる。「エクピュローシス」なんて言葉を初めて聞…

長月の一番、吉浦康裕「イヴの時間」

こないだふれた村上裕一のゼロアカ最終論文が「イヴの時間」に言及しており、これは何のことだ、と思って検索したら、ネットで配信されてるアニメだった。第一話しか見られず残念だったが、このたび全六話が完結したのを機に第二話からも再配信され、ぜんぶ…

葉月の一番、「群像」8月号、川上未映子「ヘヴン」

川上未映子については何度か書いた。言葉づかいは変わってるが、だいたい日常語や標準語に翻訳できる。それでも誰とも異なる理解しがたい私的感覚を持つことへのこだわりが、あの文体を書かせている。「新潮」七月号の「すばらしい骨格の持ち主は」で彼女は…

文月の一番、新潮8月号、東浩紀「ファントム、クォンタム」最終回(その2)

たくさんの読み違えを重ねつつ「ファントム、クォンタム」について書いてきた私だが、連載第一回から『存在論的、郵便的』との関連を指摘できたのは数少ない正解のひとつだ。「文学界」で連載中の「なんとなく、考える」第十三回(八月号)で浩紀はこう書い…

水無月の一番、村上春樹『1Q84』Book2(その2)

前回はパシヴァとレシヴァ、ドウタとマザの関係から作品全体を整理した。この小説の考えやすい部分だ。難しいのは1Q84と1984の関係である。リーダーはそれを並行世界(パラレルワールド)とはとらえていない。1984年の世界は「もうどこにも存在しない」と彼…

皐月の一番、第19回日本詩人クラブ新人賞、斎藤恵子『無月となのはな』

初耳の賞だが、おかげで素晴らしい詩集と巡り合えた。新人賞とはいえ、すでに詩人には三冊目の詩集である。また、授賞式の写真の印象では五〇代後半のようだ。そうしたこともあってか、作品は見慣れた手法の組み合わせである。もともと私は、「新しい時代の…

卯月の一番、群像4月号、ジュリア・スラヴィン「歯好症」

岸本佐知子が「変愛小説集2」と題して連載している短編翻訳の第四回作品である。第二回のマーガレット・アトウッド「ケツァール」も面白かった。互いの嫌味さえすれ違っているので表面上はたんたんとした倦怠期に見える、という夫婦をあっさり書いている。 …

弥生の一番、群像3月号、村田沙耶香「星が吸う水」

男性の自慰行為には動詞「抜く」が使われる。さて、女性も「抜く」ことができるだろうか。三十路を目前にした主人公鶴子は「抜ける」女性である。彼女の唯一の性感帯はクリトリスだ。ただし、小説ではすべて「突起」と書かれている。川上未映子の「先端」が…

如月の一番、すばる2月号、千頭ひなた「翅病」

今月の一番には「すばる」から千頭ひなた「翅病」を選ぼう。同棲相手の女性ナオを看病する若い男性奥田の話である。相手の症状は、まづ手にしびれがきて、だんだん動きが鈍くなり、意識まで固まって自分が自分である感覚も失われていく。パーキンソン病に似…

睦月の一番、群像1月号、多和田葉子「ボルドーの義兄」

文芸誌をこつこつ読んでみる、なんてことを二十年ぶりほどにやった。感想としては、昔より面白くなってるのではなかろうか。また、異国が舞台になっていたり、異国人が登場したりする作品も多い。つまり、私は日本語で読んでいるけど実際は外国語で語られて…