如月の一番、すばる2月号、千頭ひなた「翅病」

 今月の一番には「すばる」から千頭ひなた「翅病」を選ぼう。同棲相手の女性ナオを看病する若い男性奥田の話である。相手の症状は、まづ手にしびれがきて、だんだん動きが鈍くなり、意識まで固まって自分が自分である感覚も失われていく。パーキンソン病に似てる面もあるが、題名でわかるように現実には無い病である。
 始めは軽かった症状が深刻になって、ナオがまづ請うのは兄への連絡であり、通院の際に頼るのも兄である。奥田が初めてこの兄に会ったときから、この兄妹は濃密な空気を隠しもしなかった。奥田が自分を「兄の代用品」「永遠の二番手」と感じるのは当然のことだ。もっとも、それだけではあまりに小説らしくて凡庸である。
 しかし、本当にナオがしがみついて離れたくないと思っている相手は奥田なのである。これは何度説明されようと男にはわかりにくい事情だ。また、わからずにいる方が荷が軽い。いつでも別れていいのだ、と思っていられる。その安心が奥田の落とし穴になっている。ここが本作の凡庸でないところだった。
 愛し合っている、というのは一筋縄でいかない状況だ。男が女を愛する縄と、女が男を愛する縄と、二本あるからである。男は自分の縄を引っ張っても手ごたえが無い。しかし、彼は理解できないもう一本の縄によって愛されている。知らぬ間にがんじがらめにされたりする。