卯月の一番、群像4月号、ジュリア・スラヴィン「歯好症」

 岸本佐知子が「変愛小説集2」と題して連載している短編翻訳の第四回作品である。第二回のマーガレット・アトウッドケツァール」も面白かった。互いの嫌味さえすれ違っているので表面上はたんたんとした倦怠期に見える、という夫婦をあっさり書いている。
 スラヴィン「歯好症(デンタフィリア)」もあっさりした書きぶりだ。ただし、中味が変わってる。書き出しからして、「かつて愛した女は、体じゅうに歯が生えていた」なのだ。不思議な体質の女性の名はヘレンだ。たった十一ページなのに、読み切るのは大変だった。症状を読んでると悪寒が走り、何度も小休止したからである。ところが、主人公の男性は、「セクシーだと僕は思った」と言う。

 ある日、工場から帰ってみると、ヘレンが二階から僕を呼んだ。シャワーを浴びたばかりでまだ濡れて光っている体をバスタオルにくるみ、ベッドの端に腰かけていた。彼女が片腕を上げてみせた。触ってみた。腕の内側に、いまにも皮膚を突き破らんばかりにして門歯が一列に並んでいるのがわかった。

 ヘレンにとっては、「このあいだからずっと痛痒かったの」という程度である。通院して治療を試みる、というあたりから本格的に話が始まり、作品は二ページめに入る。もちろん治るわけはないが、男性の愛は変わらない。たしかに変愛だ。しかし、訳者も示唆するとおり、むしろ純愛の方が近い。
 もちろん、書き出しが「かつて愛した」だから、この愛にも終りはある。悪寒に強いかたは読んでお確かめを。