「新潮」6月号「市民薄暮」諏訪哲史

私は「ロンバルディア遠景」を読んだだけだ。まだこの人の作風がわからない。知らずに「市民薄暮」を読んだら、作者が同じことに気づかないかも。一人称の主人公が夢の中をふわふわ漂う短編である。朝吹真理子「家路」と似た趣向だ。オチは違っており、諏訪…

『1Q84』Book3 再考

村上春樹について書かれる批評というのはどうして「謎本」的なものが多いのだろう。この書き出しは大塚英志「村上春樹はなぜ「謎本」を誘発するのか」だ。二〇〇四年の『サブカルチャー文学論』に入っている。初出は一九九八年だ。このブログでずいぶん取り…

鈴木志郎康『攻勢の姿勢 1958-1971』

私は『罐製同棲又は陥穽への逃走』(1967)と『詩集家庭教訓劇怨恨猥雑篇』(1971)は持っている。鈴木志郎康というとこの二冊だし、これは初版本で読まないと意味通じないでしょ、と言いたい。しかし、『罐製』が見つからない。ので、自慢計画は中止する。 …

『1Q84』まつり、補遺。

『1Q84』のガイド本をさらに三冊読んだのでざっと。洋泉社MOOK『「1Q84」村上春樹の世界』は一番便利だった。地図とか写真とかあって資料集として使える。これだけは買ってあげた。村上春樹研究会『村上春樹の『1Q84』を読み解く』は急いで作った雑な本。5…

『1Q84』まつり「群像」「文学界」8月号

八月号は「群像」と「文学界」が『1Q84』の特集を組んでいる。前者は安藤礼二、苅部直、諏訪哲史、松永美穂の座談会と小山鉄郎の小論。後者は加藤典洋、清水良典、沼野充義、藤井省三の小論である。ほかにも、河出書房が斎藤環や四方田犬彦など三十六人の発…

六〇年代や七〇年代を語る三冊

初期の吉本隆明をまとめて読んだとき、もう具体的には思い出せないが、批評と批評の間で言ってることが矛盾しており、何度か戸惑った。すが秀実『吉本隆明の時代』(2008)はそれを、六〇年代の論戦を勝ち抜くための戦略的な変わり身として分析してくれた。…

卯月の一番、群像4月号、ジュリア・スラヴィン「歯好症」

岸本佐知子が「変愛小説集2」と題して連載している短編翻訳の第四回作品である。第二回のマーガレット・アトウッド「ケツァール」も面白かった。互いの嫌味さえすれ違っているので表面上はたんたんとした倦怠期に見える、という夫婦をあっさり書いている。 …

新潮昨年5月号、東浩紀「ファントム、クォンタム」、連載第一回

昨年の「新潮」五月号から東浩紀は小説「ファントム、クォンタム」の連載をほぼ隔月で続けて、いま六回まで発表している。題名を訳せば、「亡霊、量子」か。作者のブログでは「あと連載2回で終わり」(09/02/27)とのこと。いまから読み始めて最終回までに…