「新潮」10月号、丸谷才一「持ち重りする薔薇の花」、他、小池昌代『弦と響』

丸谷才一って文学史でどんな扱いになるんだろう。ほとんど読んだことが無い。ただ私は弦楽四重奏曲が大好きだ。彼の新作「持ち重りする薔薇の花」が弦楽四重奏団を扱っている。今年は同様の小説、小池昌代『弦と響』が出たこともあり、比べながら読んだ。た…

長月の一番、「新潮」9月号、舞城王太郎「Shit, Brain Is Dead.」

砂漠に派遣されたアメリカ兵たちの話である。任務が変わってる。指定された場所に着くと、アメリカ女が居る。民間人だ。彼女はそこで深い穴を掘る作業の指揮をとっている。何のために?夫を探すためだ。行方不明になった夫は何日も砂中を移動しているという…

『マラルメ全集』第一巻(詩・イジチュール)

三十年近くの昔、学生の頃は日本の近代詩が好きだったので、フランス語を知らないながらに象徴主義、特にマラルメへの敬意は持っていた。ブランショ『文学空間』の権威も余韻としてはまだ残っていて、だから、秋山澄夫訳の『骰子一擲』とか『イジチュール』…

前島賢『セカイ系とは何か』

セカイ系という言葉を知ったのは最近である。社会的な媒介項を抜いて自分と世界が直結してしまう、という点で、連想したのは、タルコフスキーとか志賀直哉とかだ。そんなにはずしてないと思う。調べたり検索したりしたら、言及してる人がすでにあった。最近…

川上未映子対談集『六つの星星』

川上未映子初の対談集である。「ほしほし」と読むらしい。六人との対談七つが収録されている。そのうちふたつが永井均とのだ。すでに触れた、どちらも見事なものである。他の五つはやや落ちるかな。永井との対談と比べたら、どうしてもそんな評価になろう。…

「新潮」3月号、松本圭二「詩人調査」

「新潮」三月号が巻頭で変わった特集をしていた。五十二人の作家がリレー形式で一週間づつ担当して、昨年一年間の日記を完成させるのである。ざっと眺めた程度の感触を言うと、当然と言えば当然なのだが、借金の話が無い、芸者遊びの話が無い、結核になって…

国立国際美術館「絵画の庭−ゼロ年代日本の地平から」展

通勤中にポスターを見かけて興味を持った。毎日新聞で高階秀爾が好意的な評を書いている(2月18日)。これが決め手で見に行った。若手を中心に二十八人の作品が二百点ほど。全体としては大学美術部の合同展のようだった。素人くさい。小説も美術も似たよう…

三島由紀夫賞、前田司郎『夏の水の半漁人』

書き出しは期待させたが、読み進めるうちだんだん心配になってきた。これの受賞理由って、「誰もが通過してきたはずなのに忘れてしまった子供時代のささいな出来事の数々をみずみずしい感性によってよみがえらせた」とかなのでは。まさかねえ、と「新潮」七…

去年と今年の新潮新人賞、特に選評

飯塚朝美は三島由紀夫っぽい。いまどき珍しい本格志向である。昨年に新潮で新人賞を獲った「クロスフェーダーの曖昧な光」には『金閣寺』が使われていた。この時の選評は後に「群像」の「侃侃諤諤」でも話題になったように、ほとんどの選考委員がとげとげし…

「ヘヴン」まつり

7月12日の毎日放送「情熱大陸」で「ヘヴン」の難産ぶりが紹介されたこともあって、「群像」八月号はすぐ売り切れてしまった。新聞の時評も好意的だったようである。当然「群像」は九月号の「創作合評」でたっぷり扱い、十月号には作者のインタヴューも載っ…

群像7月号、田中慎弥「犬と鴉」

十月号が出ている世間に向けて七月号を書くのは気が引けるが、たった三〇ページ強のこの小説は、ちゃんと読むのに時間がかかったのである。読みにくいったらありゃしない。作品として主題を読むなら、つまり、なに言いたいんだよ、というレベルなら、「群像…

『1Q84』まつり「群像」「文学界」8月号

八月号は「群像」と「文学界」が『1Q84』の特集を組んでいる。前者は安藤礼二、苅部直、諏訪哲史、松永美穂の座談会と小山鉄郎の小論。後者は加藤典洋、清水良典、沼野充義、藤井省三の小論である。ほかにも、河出書房が斎藤環や四方田犬彦など三十六人の発…