1Q84

「考える人」夏号、「村上春樹ロングインタビュー」(その1)

聞き手が良い。だから村上春樹は三日にわたってすごくたくさん語ってくれている。春樹ファン必読だ。当然ながら『1Q84』の話題が多い。あんまりたくさんなので、全体的な紹介はあきらめて、「一日目」から、断片的なことだけ書いておこう。『1Q84』…

『1Q84』Book3 再考

村上春樹について書かれる批評というのはどうして「謎本」的なものが多いのだろう。この書き出しは大塚英志「村上春樹はなぜ「謎本」を誘発するのか」だ。二〇〇四年の『サブカルチャー文学論』に入っている。初出は一九九八年だ。このブログでずいぶん取り…

村上春樹『1Q84』Book3、読了

単純明快に一九八四年に帰還させるということだけはさすがにしなかったようであるが、ごく普通に終わったな、という印象に変わり無い。Book1, 2 の多様性が、再会の一点にあっさり収束されてしまい、戸惑いが残った。先月二十五日の諸新聞の評をざっと並べて…

村上春樹『1Q84』Book 3 読書中(その3)

第27章まで読んだ。Book1, 2 を昨年に読んだ読者の多くが続編を望んだ。彼らに対する違和感を、私は軽蔑をこめて前に書いた。しかし、そのまさに書いたまんまの「二人が奇跡の再会を果たして泣いて抱き合う、どこにでもころがってる結末」に物語は向ってしま…

村上春樹『1Q84』Book 3 読書中(その2)

第18章まで読んだ。ここまでBook3 を特徴づける新しい登場人物が出ていない。舞台もそのまま。つまり、Book1, 2 の設定を引き継ぐだけの進行である。いつになったら変化が現れるのか。変わり映えのしない天吾のアパートを見張り続ける牛河のような気分になっ…

村上春樹『1Q84』Book 3 読書中(その1)

Book 1、2 までの『1Q84』をまとめれば、主題は「物語」だ。 「がんばれば夢がかなう」とか、「本当の自分を見つけよう」とか、物語とはそういうもので、現代文学理論では軽蔑される。 しかし、どんなに軽蔑しようと、人は物語から逃れられない。青豆や…

『1Q84』まつり、補遺。

『1Q84』のガイド本をさらに三冊読んだのでざっと。洋泉社MOOK『「1Q84」村上春樹の世界』は一番便利だった。地図とか写真とかあって資料集として使える。これだけは買ってあげた。村上春樹研究会『村上春樹の『1Q84』を読み解く』は急いで作った雑な本。5…

「新潮」8月号、青山七恵「山猫」

周囲が若い女性ばかりの職場に居たことがあって、その何年間は万巻の書も及ばぬ勉強になった。まったく学ばぬ鈍感な男性の同僚も多い。私が幸運だったのは、占いを趣味にしており、彼女らからいろんな話を聞くことができたことだ。その経験を一言でまとめる…

『1Q84』まつり続(その2)、河出の『どう読むか』

『1Q84』に関する本が何冊か出ており、これからも出る。私は河出書房新社『村上春樹『1Q84』をどう読むか』を買った。悪く言えば大急ぎで作った雑な本だが、それだけに気楽に読める文化人評判集である。 概して低調な発言が並ぶのは仕方無かろう。一例だけ挙…

『1Q84』まつり続(その1)、「新潮」9月号

「新潮」八月号と九月号に福田和也「現代人は救われ得るか」が載った。九月号には安藤礼二「王国の到来」も載った。 いろんな書評を読んだので、それらのパターンも見えてきた。たとえば、青豆の行う正義は人殺しであって、リーダーの悪と大差無いことを指摘…

『1Q84』まつり「群像」「文学界」8月号

八月号は「群像」と「文学界」が『1Q84』の特集を組んでいる。前者は安藤礼二、苅部直、諏訪哲史、松永美穂の座談会と小山鉄郎の小論。後者は加藤典洋、清水良典、沼野充義、藤井省三の小論である。ほかにも、河出書房が斎藤環や四方田犬彦など三十六人の発…

新潮4月号、東浩紀「ファントム、クォンタム」、連載第六回

村上春樹『1Q84』と東浩紀「ファントム、クォンタム」の世界観の違いは、可能世界と並行世界の違いである。簡単ながら前回の更新でふれた。たとえば、あるベテラン軍人に若いころは神父になる可能性があった場合、その事態を可能世界として考える限り、それ…

水無月の一番、村上春樹『1Q84』Book2(その2)

前回はパシヴァとレシヴァ、ドウタとマザの関係から作品全体を整理した。この小説の考えやすい部分だ。難しいのは1Q84と1984の関係である。リーダーはそれを並行世界(パラレルワールド)とはとらえていない。1984年の世界は「もうどこにも存在しない」と彼…

村上春樹『1Q84』Book2(その1)

月はふたつあるのだ。ふたつめの月は、ひとつめの影にあたる。ひとつめが主で影が副というわけではなく、ふたつでひとつだ。ほとんどの人はひとつめの月しか見たことが無い。ただしパシヴァ(知覚者)なら見ることができる。また、レシヴァ(受容者)の資質…

新潮昨年11月号、飯塚朝美、週刊朝日6月26日、東浩紀

あなたを望んで産んだわけではない、と親に言われた娘の気持はどんなだろう。少なくとも、親はそんなことを言うべきではない。しかし、往々にして文学新人賞の選評にはそんな文句が現れる。しかも、親の眼に映る子ども像の多くは実像であるのに対し、選考委…

村上春樹『1Q84』Book1

二巻発売されたうちの一冊目である。主人公は二人いて、奇数章は女性、青豆さんだ。彼女が1984年の現実から1Q84に移ってしまう話である。一冊読んだ限りでは、そんな並行世界を設定する絶対の必然性を感じない。私は東浩紀「ファントム、クォンタム」と何度…

新潮2月号、東浩紀「ファントム、クォンタム」、連載第五回

そのうちみんなが言うだろう、村上春樹『1Q84』と「ファントム、クォンタム」は似てる。簡単に検索したところ、一般に公開されてる日本語サイトで、これを指摘してるのはいまのところ私だけらしい。痛快である。 『1Q84』は9章まで読んだ。青豆さんが並行世…

新潮昨年12月号、東浩紀「ファントム、クォンタム」、連載第四回

「新潮」6月号で星野智幸「俺俺」が始まった。主人公の男性と別の男で人格が入れ替わってしまう話である。「ファントム、クォンタム」と似ている。また、村上春樹の新作『1Q84』Book1 の帯にはこうある。これも「ファントム、クォンタム」を思わせる。 「こ…