「考える人」夏号、「村上春樹ロングインタビュー」(その1)

 聞き手が良い。だから村上春樹は三日にわたってすごくたくさん語ってくれている。春樹ファン必読だ。当然ながら『1Q84』の話題が多い。あんまりたくさんなので、全体的な紹介はあきらめて、「一日目」から、断片的なことだけ書いておこう。『1Q84』の『金枝篇』など文化人類学的な面について。

 フレイザーは昔読んだきり、じつはあまり覚えていないんだけれど、『生きるよすがとしての神話』のジョーゼフ・キャンベルなんかはよく読みました。小説を書く役に立つ立たないではなく、ただただおもしろいから読んできたんですが。

 キャンベルの名を初めて私が知ったのは、昨年に読んだ大塚英志『キャラクター小説の作り方』(二〇〇三)の一節である。「「スター・ウォーズ」のシナリオにジョセフ・キャンベルという神話学者が関わっている、ということが伝え聞こえてきました」。気になっていたところ、こないだ『神話の力』(一九八八)が文庫化されて、ちょうど私も読んでいる最中だった。それで春樹の発言が目にとまったのである。『神話の力』からこんな一節を引用しておこう。

 ダース・ベーダーは自分の人間性を発達させてなかった。彼はロボットだった。自分自身の意志ではなく、押しつけられたシステムに従って生きる官僚だった。これは今日私たちみんなが直面している脅威です。システムが私たちを押しつぶして人間性を奪ってしまうのか、それとも私たちがシステムを利用して人間の目的に役立てるのか。システムとどういう関係を結べば、それへの強制的な服従を避けられるのか。システムのほうを私たちの思考体系に合うように変えようとするのは無駄です。

 ぢゃあどうすればいいのか。答は、「自分自身の理想をしっかり持ち続けること、そしてルーク・スカイウォーカーがしたように、システムがあなたをロボット扱いしようとするのを拒否することですね」。春樹に関して、これが、システムへの抵抗を表明したエルサレム賞受賞講演や、自分の物語を生きろという『1Q84』のメッセージを思わせるのは言うまでも無い。違いもある。キャンベルはとことん神話を礼賛するばかりで、春樹のような物語の危険性を強く意識する面が欠けている。
 もうひとつ、インタヴュー一日目から、いちばん心に残った一言を引用しておく、「BOOK3は、できればじっくり時間をかけて読み返してもらえるとありがたいなと思います(略)1、2の続きではあるんだけど、作品としては「別もの」だと僕は認識しています」。BOOK3の悪口を私は書いたけど、春樹の言うとおりにしたら意見が変わりそうな気がした。