ファントム、クォンタム

「新潮」10月号、朝吹真理子「流跡」ほか。

これまで私は十三回も東浩紀「ファントム、クォンタム」について書いてきた。うまく読めてないからそうなる。量子脳やSFの素養が無さすぎるのが一因かなあと思って、ペンローズやイーガンを読んだ。読後感は、「理系方面をマニアックに読み込んでも、『新…

ゴーストとファントム(その2、東浩紀)

機械は心を持つのか、というのはそんなに新しい問題でも難しい問題でもない。多くの知人に「機械と人間の違いは何か」と訊いたことがある。「機械には心が無い」というのが私の予想した多数意見であり、事実そうだった。「すると」と、私は用意した第二問を…

佐々木敦『ニッポンの思想』(その2)

この本には、私の知らない話、忘れてた話、軽視してた話、がたくさんあって、それが役に立った。一例だけ挙げておこう。 「週刊朝日」の緊急増刊「朝日ジャーナル」(04/30)に、浅田彰と東浩紀とほか二名の座談会が載った。ふたりの違いがハッキリする応酬…

文月の一番、新潮8月号、東浩紀「ファントム、クォンタム」最終回(その2)

たくさんの読み違えを重ねつつ「ファントム、クォンタム」について書いてきた私だが、連載第一回から『存在論的、郵便的』との関連を指摘できたのは数少ない正解のひとつだ。「文学界」で連載中の「なんとなく、考える」第十三回(八月号)で浩紀はこう書い…

新潮8月号、東浩紀「ファントム、クォンタム」最終回(その1)

ついに最終回である。私の期待も予想もほとんど裏切られて、その点では不満も敗北感も大きい。でも、それはどうでもいいことだ。私は『1Q84』と比べながら読んで、並行世界や可能世界について考えた。東浩紀よりも村上春樹の方が話上手だが、この問題につい…

新潮7月号、東浩紀「ファントム、クォンタム」、連載第七回

明日に「ファントム、クォンタム」の最終回が出る。その前に第七回についても書いておこう。もっとも、この回は筋書き上は最終回へのつなぎの章でしかない。粗雑ながら、今日しか考えられないことを書き留めておく。第一回で扱った村上春樹「プールサイド」…

新潮4月号、東浩紀「ファントム、クォンタム」、連載第六回

村上春樹『1Q84』と東浩紀「ファントム、クォンタム」の世界観の違いは、可能世界と並行世界の違いである。簡単ながら前回の更新でふれた。たとえば、あるベテラン軍人に若いころは神父になる可能性があった場合、その事態を可能世界として考える限り、それ…

水無月の一番、村上春樹『1Q84』Book2(その2)

前回はパシヴァとレシヴァ、ドウタとマザの関係から作品全体を整理した。この小説の考えやすい部分だ。難しいのは1Q84と1984の関係である。リーダーはそれを並行世界(パラレルワールド)とはとらえていない。1984年の世界は「もうどこにも存在しない」と彼…

新潮昨年11月号、飯塚朝美、週刊朝日6月26日、東浩紀

あなたを望んで産んだわけではない、と親に言われた娘の気持はどんなだろう。少なくとも、親はそんなことを言うべきではない。しかし、往々にして文学新人賞の選評にはそんな文句が現れる。しかも、親の眼に映る子ども像の多くは実像であるのに対し、選考委…

新潮2月号、東浩紀「ファントム、クォンタム」、連載第五回

そのうちみんなが言うだろう、村上春樹『1Q84』と「ファントム、クォンタム」は似てる。簡単に検索したところ、一般に公開されてる日本語サイトで、これを指摘してるのはいまのところ私だけらしい。痛快である。 『1Q84』は9章まで読んだ。青豆さんが並行世…

新潮昨年12月号、東浩紀「ファントム、クォンタム」、連載第四回

「新潮」6月号で星野智幸「俺俺」が始まった。主人公の男性と別の男で人格が入れ替わってしまう話である。「ファントム、クォンタム」と似ている。また、村上春樹の新作『1Q84』Book1 の帯にはこうある。これも「ファントム、クォンタム」を思わせる。 「こ…

新潮昨年10月号、東浩紀「ファントム、クォンタム」、連載第三回

私は苦手分野について嫁にいろいろ教わっている。彼女は腐女子なのである。彼女に頼んで、東浩紀が『ゲーム的リアリズムの誕生』で言及している「Air」をやらせてもらった。すると、「往人」がその登場人物であった。「Clannad」も見せてもらった。「風子」…

新潮昨年8月号、東浩紀「ファントム、クォンタム」、連載第二回

村上龍がホスト役を務めたテレビ番組「Ryu's Bar 気ままにいい夜」の最終回に柄谷行人が出た。1991年3月である。最後の数分の話題が「生まれ変わったら何になりたい?」だった。柄谷は、私の記憶そのままに再現すると、「何にも生まれ変わりたくない。いま…

新潮昨年5月号、東浩紀「ファントム、クォンタム」、連載第一回

昨年の「新潮」五月号から東浩紀は小説「ファントム、クォンタム」の連載をほぼ隔月で続けて、いま六回まで発表している。題名を訳せば、「亡霊、量子」か。作者のブログでは「あと連載2回で終わり」(09/02/27)とのこと。いまから読み始めて最終回までに…