川上未映子対談集『六つの星星』

 川上未映子初の対談集である。「ほしほし」と読むらしい。六人との対談七つが収録されている。そのうちふたつが永井均とのだ。すでに触れた、どちらも見事なものである。他の五つはやや落ちるかな。永井との対談と比べたら、どうしてもそんな評価になろう。メモとして、いくつか引用しておく。まづ、斎藤環との対談では、母と娘の関係が話題になった。

斎藤 川上さんのお母様は、ずっと働いていらっしゃって、冷蔵庫の中で……。
川上 大きい冷蔵庫が職場なんですね。
斎藤 それにたいしてある種の罪悪感というか、ずっとそれを抱えてこられた。
川上 だから今でもマッサージになかなか行けなかったりもします。それはなぜかというと、私が受けるマッサージはすべて母親が受けるべきだとか思ってしまうんです。

 母について川上は「ほんとに無私なところがありました」と言う。恩に着せて娘を支配しようとしない。斎藤は言う、「それもやっぱり逆支配のような形で、お母さんの影響が大き過ぎるんじゃないでしょうか」。川上の答は「大きいと思います」。こんな人間関係はまだ川上作品には書かれてないのでは。
 松浦理英子との対談では松浦の『犬身』が話題になった。あの小説では房恵と梓の関係が説明しづらいところだ。同性愛のようでそうではない。次の会話で納得できた。同類愛とでも言うべきものなんだろう。

川上 松浦さんは本当に犬がお好きだと思うんですが、それこそ房恵のように「犬になりたい」という気持ちって、その場合の「犬」というものは何を指すんですか?
松浦 それはもう無条件に愛される、可愛らしい存在です。可愛らしいというただそれだけのことが、人の心の深みから快い感情を引き出すような存在。(略)しかし世の中には、犬が好きだと言いながら、犬に威張りたい、犬を従わせたいということしか考えてないように見える人も結構いますよね。(略)それで思ったのは、(略)犬と女の立場は似ているんじゃないか、ということです。どちらもこの世の中で愛されることになっているけれども、実態は大して愛されていないという意味で。

 ほか、多和田葉子との対談では川上はこんなことを言っていた、「『ゴットハルト鉄道』を愛読していて、最初に小説を書いてくださいと言われたときに、どう書けばよいかが全然わからなかったので、『ゴットハルト鉄道』を手で全部書き写しました」。残り二人の対談は福岡伸一穂村弘である。