神無月の一番、なかにしけふこ『The Illuminated Park』

 副題は「閃光の庭」。これが第一詩集らしい。古風な、どことなく定型句めいた言葉遣いが目立つ。形式感も備えた詩人で、読んでいると、賦とか、頌とか、私の頭にはそんな実はよく知りもしない用語が浮かんでくる。「エクピュローシス」なんて言葉を初めて聞いた。「宇宙炎上」と訳されるストア学派の用語で、何度でもすべてを焼き尽くし、そのつど世界を始めから更新させる大火らしい。そんな題名の詩からちょっと引こう。

翼はもう退化してしまっているのに、ここではないどこかへむかおうとする、空を飛べたころの記憶がきざす。秋の頃はこがねのみのりのあたらしい穀物の香ばしさにうっとりとしているけれど、野も森も枯れて凍る冬ともなればあやうい。雪に閉ざされた閉ざされた小舎で、はじまりたちの欲望はたがいを冒す。飛びたい、飛びたい、

 歴史の終わりを意識しつつ、更新の大火を欲し、みづからも羽ばたこうとする気分がよく出ており、この詩の最後は「そして橄欖の油をそそぎ。地に火を放て」と結ばれる。なれなれしさを拒む硬質な表現を基調としつつも、しかし、彼女の本領はそこにほんのりと官能性をしのばせる所に発揮される。十四行詩「花」の第一連を引こう。

あしうらにまだ燃えてゐる
たましひのうすあをいかげ
瓦礫のうへのあたらしい都市に
花双樹の白 まばゆいばかり

 「あとがき」には高橋睦郎新倉俊一小池昌代なんかへの感謝が申し添えられている。悪くない出会いだったんぢゃなかろうか。