水無月の一番、高橋源一郎『「悪」と戦う』(その2)

 初出連載と単行本との比較はすでに「群像」七月号で安藤礼二の書評がやっていた。安藤は「モナドジー」と重ねて『「悪」と戦う』の並行世界を説明している。ライプニッツで説明がつくなら、人間が悪と戦える余地は無い気もする。まあいいや。この小説の最後の部分が初出ではどうなっていたか、引用しておく。初出では可能世界のニュアンスが弱かったのがわかる。今回もできるだけネタバレは避けたいから、単行本の引用はせずにおく。

 わたしたちは、みんな、戦っているのだ、とわたしは思いました。突然、そんな気がしたのです。ミアちゃんのお母さんも、ミアちゃんも、ランちゃんもキイちゃんも、あらゆる人たちは、みんな、それぞれの場所で。わたしは、自分のこの考えに、ちょっと興奮しました。

 記しておきたいのがもう一か所ある。「マホさんって、誰?」とランが尋ねる場面で、初出では即座にマホは、「バカチン!! そんなこともわかんないのかよ! ……に決まってんじゃん!」と答えるのだ。「……」って何なのか、種明かしはエピローグでほのめかされる。書き直してくれて良かったなあ。単行本の方が劇的な効果があって好きだ。
 作品の評価としては私がどうこう言うよりも、「西東京日記INはてな 」の「「高橋源一郎舞城王太郎化」、この小説を一言で表すとしたらこの言葉になります」がうまいと思った。もちろん、「もともと、舞城王太郎自体も高橋源一郎の影響を受けていると思われる部分があります」ということをわかったうえでの一言である。