クォンタム・ファミリーズ
東浩紀『クォンタム・ファミリーズ』とその初出形「ファントム・クォンタム」について、私は三〇回くらいの記事を書いてるのではないか。いくら書いてもわからんところが残る。優秀な読者ではないのだろう。そんなことをひとつだけ付け足しておく。 主人公の…
東京大学で行われたシンポジウムの記録である。東浩紀と『アンチ・オイディプス草稿』の共訳者、國分功一郎と千葉雅也が、『クォンタム・ファミリーズ』を、『存在論的、郵便的』の続編として読めるという観点から論じ合った。この線で初めて語り合えるまと…
私が現代詩を読めなくなってきたのは、たぶん、平出隆や松浦寿輝を好んで、稲川方人を読まなかったことも一因かもしれない。稲川の方が現代詩であった。今となっては平出や松浦を詩人とは呼びにくくなっている。対して、中尾太一が稲川方人から生まれている…
この話題を終えるのは結構大変なのかもしれない。また無視できない説が見つかった。「ユリイカ」五月号が『クォンタム・ファミリーズ』の小特集を組んでおり、その中の佐藤雄一「QF小論」によると、投瓶通信はマンデリシュタームの評論「対話者について」…
書評よりも作者本人の発言の方が参考になるケースが多かった。たとえば、twitter で三浦俊彦『多宇宙と輪廻転生』に関して、「いままでだれも指摘しませんでしたが、これは元ネタのひとつです」(09/12/25)なんて言ってる。昨年四月に書いたように、初出の…
『クォンタム・ファミリーズ』の書評はネットや文芸誌などでいろいろ読んだ。茂木健一郎、法月倫太郎、佐々木敦、小谷野敦、宇野常寛、前田塁、阿部和重、斎藤環、平野啓一郎など。ぱっとしないのが多い。茂木健一郎を例にとろう。彼はブログで、量子力学の…
佐渡のトキ保護センターでトキが九羽も死んでしまったという。どうもテンが施設内部に入り込んだらしい。調べると、ケージは穴だらけだったようだ、「金網の網目より大きなすき間が260カ所以上見つかっている」(毎日新聞三月一六日)。おかげで面目まる…
いろんな二月号がぱっとしないので、積んだままの一月号をゆっくり読める。話題になった「新潮」の対談二つを。ひとつは大江健三郎と古井由吉。反戦反核の作家と内向の世代が語り合う、というのは私には違和感があったけど、古井の対談集を探したら前にもあ…
読み終わった。最後は「物語外2」である。一章だけしかなく、その章題は「i 汐子」だ。記号「i」は「ファントム、クォンタム」では第二部に使われていた。「i 汐子」にあたる章は「−1」だった。 「ファントム、クォンタム」では「ぼくは九年前には結婚…
『ファントム・ファミリーズ』公式のTwitter によると、第一刷には誤植があって「350頁1行目、誤「わからないですのか」→正「わからないのですか」」とのこと。ぜんぜん気がつかなかった。東浩紀のTwitter によると、「「量子家族」というタイトルには、「核…
第二部に入った。「8家族1」まで読んだ。連載では第六回にあたる。大きな改稿は無い、と思う。指摘する意味のありそうな箇所をひとつだけ。連載での理樹は友梨花に言う、「なにか重要なことを見落とし続けている気がするのです」。 ぼくたちの転送によって…
「ファントム、クォンタム」を読んでいて感心したのは、東浩紀にSF作家として充分やっていける筆力があることだ。往人、友梨花、理樹、風子の哲学の書き分けが明快だった。特に私が楽しんだのは理樹と風子の対比で、私は風子を応援していた。風子は理樹の…
最近は「私の複数性」を扱う小説がなぜ多いのか。来年にゆっくり考えるつもりが、とっくに東浩紀「情報社会の二層構造」(『文学環境論集』2007年)に書かれていた。ポストモダンとその社会構造が簡潔に説明されている。二層構造とは次のようなものだ。 二一…
「7父4娘4」の途中まで読んだ。まづ「4娘2」から。「一世紀前のドイツで活躍した有名な哲学者」の言う「罪」が興味深い。「ファントム、クォンタム」では「現存在」という用語で説明されている。「罪」なんて『存在と時間』にあったっけ?「負い目」(…
「3父2」を読んだ。「ファントム、クォンタム」に関して09/07/28 でふれた疑問箇所は、「2娘1」章と同様やはり削除されていた。どちらも同じ疑問を起こす箇所だったので、それがともに削除されたというのは、偶然ではなく、よく練られた結果なのだと思う…
「2娘1」を読む。父と娘が交互に語り合う章立てのようだ。ますます村上春樹っぽいが、「ファントム、クォンタム」より構成感がくっきりして良い。「娘」の章で特筆すべき改稿点は、「あなた」への手記になったことだ。「わたしはいま、故郷の世界から遠く…
「新潮」連載時とは対照的に話題になってるようだ。作者のブログによれば、初刷が5000部で、発売日には増刷5000部が決まったとのこと。文芸誌とは無縁の読者層に支持されているのだろう。 第一部の最初「1父1」を読む。往人の結婚相手の父は「著名な字幕翻…
前にも書いたことの確認から始める。東浩紀は『1Q84』について、作者の新境地が見られない点を厳しく批判している(「週刊朝日」六月二六日号)。村上春樹は「還暦を迎えてなお『自分探し』や『父との和解』にこだわる作風」を変えずにいる、という一節がそ…