トキと33歳

 佐渡のトキ保護センターでトキが九羽も死んでしまったという。どうもテンが施設内部に入り込んだらしい。調べると、ケージは穴だらけだったようだ、「金網の網目より大きなすき間が260カ所以上見つかっている」(毎日新聞三月一六日)。おかげで面目まるつぶれになったのは、『ニッポニアニッポン』の主人公ではなかろうか。裸一貫であっさりと欲望を行動に移したテンに比して、あの主人公の思想と重装備は滑稽である。もともとそう見せるつもりのユーモア小説だったんだな、とまで思わせる。指摘する人が意外に少ないのだけれど、阿部和重作品の受難は昨年からの傾向だ。『インディヴィジュアル・プロジェクション』の「33歳問題」は東浩紀クォンタム・ファミリーズ』の「三五歳問題」に上書きされ消えてしまったようだ。