東浩紀『クォンタム・ファミリーズ』(その9)

 『ファントム・ファミリーズ』公式のTwitter によると、第一刷には誤植があって「350頁1行目、誤「わからないですのか」→正「わからないのですか」」とのこと。ぜんぜん気がつかなかった。東浩紀Twitter によると、「「量子家族」というタイトルには、「核家族が作れない家族の物語」という意味を込めたつもりなのです。「核家族」は英語だと Nuclear familyだから。核そのものが確率的な存在ということで量子。 6:57 AM Jan 2nd webで」とのこと。
 第二部まで読んだ。「9家族2」ではカルト教祖の記述がディック『ヴァリス』と似ていることに葦船往人が気づく。「ファントム、クォンタム」では、「往人はその物語を、どこかで読んだような気がした。しかしどこで読んだのかは思い出せなかった。小説のような気もした」とあるだけだ。そして「10家族3」へ。私が改稿に一番期待していた二箇所はどうなっただろう。「声」に関しては、私の予想と同じことを往人が考えていた。しかし、もうひとつがうまく直されてない。FBI の取り調べを受けているテロ容疑者がなぜ行方不明になったのか、についてだ。汐子が容疑者の「記憶を奪い路地に投げ捨てた」、というのが改稿を経た記述である。これでは納得できない。まあ、何も直さないよりはましだ。それに、もっと気になる書き直しが生じた。第二部の世界を汐子が作った、と理樹は説明するが、それだけでは済まなさそうな気がしてきた。
 章末である。「この滅びゆく偽物の世界を肯定しよう」という往人の言葉が書き足された。「肯定」は前にもふれた風子も口にした印象に残る単語である。そして、意識の遠のく往人の様子が「ファントム、クォンタム」では、「まるで脳内に住まう怪物に魂を掴まれ引きずり込まれるかのような」とあった部分が、改稿によって、「なにか後頭部をぐいっと鷲掴みにされて内側に向かって引きずり込まれ」云々に変わった。まだ気分的な感想なので説明できないが、村上春樹世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』の結末を連想した。さっそく比べたが、いま述べたことに関しては似てるわけではない。