NHK総合テレビ6月20日、「川の光」

 原作があり、同じ題名で松浦寿輝の児童文学である。本になったのは2007年だ。川を住みかとしていたクマネズミの親子が、河川工事で追われてしまい、新天地を求めて旅に出る。これをNHKが「SAVE THE FUTURE」という環境番組キャンペーンの一環としてアニメ化した。しかし、そんなイデオロギー臭さは無く、原作どおり親子の愛と冒険の物語になっていた。監督は平川哲生でこれが初作品だ。
 原作は愛すべき場面がある反面、大きな欠点も持っている。親子がピンチになるたびに、あまりに好都合に救いの手が差し伸べられ、それが単調なまでに繰り返されるのだ。これを平川はある程度うまく処理したと思う。400ページ近い原作を70分ほどで済ますのだから、当然かもしれないが、ピンチの数を大きく減らした。おかげで、見ていてピンチに飽きがこなかった。
 平川は原作を切り詰めただけではない。独自の挿話や情景をたくさん盛り込んだ。そのほとんどが成功している。才能を感じた。ひとつだけ挙げよう。原作のネズミの親子は、未知の地への旅をしているのに、その心情は故地への帰還に近い。アニメではそんな、「川が懐かしい」という気持ちを、夜更けの図書館の一台の給水機で、表現して見せた。子ネズミがペダルにちょこんと乗ると、水が噴き出す。そして、子ネズミは給水機に耳をあてて、じっと水音を聴くのだ。
 もちろん、原作のいろんな部分がカットされたのは残念である。特に最後の十分弱はあっけなかった。原作の獣医さんが大好きだという人は見終わって憮然としたかもしれない。まあ、これはしかし仕方無かろう。最後に。松浦は「川の光」の姉妹編も書いている。「群像」昨年一月号「月の光」だ。原作と異なる幻想純文学である。原作が文庫化されたら合わせて収録されるだろう。これだけ読んでもらってもいいくらい好きだ。