第62回正倉院展

 最初に正倉院展を観たのはいつだろう。「鳥毛立女屏風」が目当てだったから一九九九年(第五一回)か。それから四回くらい行ったのかな。ベストは二〇〇五年(第五七回)である。「平螺鈿背八角鏡」が印象に強い。平日に行くようにしており、混んでるという記憶は無い。ここ数年は観たい物が出ず、今年は「螺鈿紫檀五絃琵琶」に魅かれたので、久しぶりに出かけた。なんとか都合がついて今回も平日に行けた。ところがやたら混んでいる。いつ頃からこんなになったのか。特に琵琶に行列ができており、近くで見たい人は四十分ほど並んでくれと館員が叫んでいる。そんなら遠くでもいいや、と人垣の後ろから眺めた。さいわい、それでも楽しめた。背面が美しい。混雑に気圧されてしまい、ほとんどそれを観ただけの三十分ほどで引き上げた。来年以降もこんなかな。今年が遷都一三〇〇年祭と重なったからこうだったのかな。出口にたどり着くと、さらにごった返している。そこは土産物売場だった。まあ繁盛して悪いことはない。
 ちょうど興福寺の北円堂内が公開されてる時期でもあった。無著世親が観られる。大好きだ。特に無著の、この世の愚かさと悲惨さを見つめる御顔がいかにも東洋の哲学者らしくて良い。二人の真ん中の弥勒如来ももちろん良い。周りを四天王が囲む。私はいつも正面で手を合わせると、持国天弥勒如来の間から世親の顔が見える位置に移る。この角度から観賞するのが好きだ。世親と無著と弥勒が生きて並んでるような生々しさを感じるのである。