小池昌代『コルカタ』

 十二月にたくさん新刊を買って読み終わらずにいたけど、『転生回遊女』でやっとひと段落である。その間にしかし、小池昌代は詩集『コルカタ』と短編集『怪訝山』を出して私を引き離してしまった。もっとも、二冊のうち『コルカタ』は軽い仕上がりで、あっさり読み終わった。書店の企画のために毎朝一篇づつ書いて送ったものだという。完成度よりも即興性の詩だ。いや、詩というよりは随筆の文体である。コルカタカルカッタ)へ旅した体験をつづっている。「切断」の冒頭を引いておこう。
  そして
  大きな嘆きの声があがり
  暗闇がきた
  印度の停電
  互いに在ることが こんなにありありと感じられるのに
  塗りつぶされ 何も見えない
  Tokyo の家にあったような
  小さく灯る 電子機器の合図すらも
  あんこ のような闇のなかで
  ごく近くに
  ダンスで熱を帯びた 女たちのからだがあり
  わたしのからだがあり
  毛穴から むんむんと 生が 蒸発していた
 女だけで集まって踊っていたようである。そこに一瞬の停電が起こり、いきなりの暗闇に緊張した「小さな手」が詩人の手を握る。たぶんそれが詩人に、子供の頃の東京でしばしば経験した停電を思い出させる。部屋に明かりがもどり、「わたしたちは/さっきと同じ笑顔で/でも少し違う笑顔で/再び ダンスを踊りだす」。
 『転生回遊女』はまた次の機会に。