十年前の「中央公論」五月号を読んだ

 瀬戸内寂聴山田詠美の対談があった。今年の「群像」一月号の対談も良かった。馬が合うのだろう。女流文学会の話がまた出ている。「群像」よりずっと愉快だ。平林たい子佐多稲子などなど四十人で箱根に遊んだときのこと、まだひよっこの瀬戸内は「ちんぴらだから大広間の入口、隅っこの末座に座らされるわけ」。すると、

瀬戸内 平林さんが「瀬戸内さん!」て、はるかかなたからのたまうの。「あなたは確か阿波の人でしょう」「はい、左様でございます」「じゃ、阿波踊り踊ンなさい!」
山田 そんな傍若無人
瀬戸内 「三味線ありませんかねえ……」「三味線なんかありません。出てきて踊りなさい」「じゃ、皆さん、お箸でお茶碗叩いてください」って、エライヤッチャ、エライヤッチャって踊ったのよ。(笑)
山田 それってマジですか!?
瀬戸内 そのとき、若い編集者がお銚子を持って、ずっとお酒を注いで廻ったの。そうしたら佐多さんが、「おやめなさい! 出世前の男がそういうことをするもんじゃありません!」。
山田 ひえーっ! おかしい。(笑)
瀬戸内 そしたら皆がシーンとしてね。そのときは皆の怒りは佐多さんに向かってたわけ。「いいじゃないの!」
山田 たいへーん! すごい権威的ですね。
瀬戸内 あの日のことは忘れもしないわ。

 『女流文学者会・記録』がつまんなかった話は前にした。こんな場面が少なかったのである。ちなみに『記録』を読んだのは矢田津世子について何かわかるかなと期待してだった。高見順『昭和文学盛衰記』にあった醜聞が気になっていたのである。結論を言うと、『記録』ではなく近藤富枝『花蔭の人』が詳しかった。女流作家が矢田に濡れ衣を着せて足を引っ張った、というのが真相らしい。これにしても瀬戸内のエピソードにしても、女の敵は女というわけか。